竜と勇者と配達人 を読んだ

竜と勇者と配達人 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

竜と勇者と配達人 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

いやー面白かった。

いわゆる中世ファンタジー世界で、配達員の主人公を通して社会をおもしろおかしく描くコメディ漫画。おおむね1話完結で、毎回いろいろな職業を出し世界を描きつつ、絶対何かしら大きい笑いどころを持ってくるというホスピタリティみあふれる漫画でした。

配達人という設定がまたうまく、いろいろな現場に出入りできるし、話の確信に近い位置から俯瞰して物を見れる位置にいるわけです。自分はこれを見て郵政博物館を思い出した。

thrakt.hatenablog.jp

主人公がやたら危険な目にあっているのも、時代背景を考えるとむしろ当然だという事がよくわかります。実際昔は護身用の銃やらラッパやら持ってたんだ。積荷狙いの追い剥ぎとかあるだろうなぁ。さらに駅逓局局長が途中監視社会論をぶち上げる大爆笑必至なシーンがありますが、あれも情報を司る部署、言ってみれば中世のGoogleと考えると実に妥当性のある話になるのです。つーかこの世界通信の秘密ないよな。配達人が督促状読み上げてるのとか結構コンプラ未整備では?

いやー面白い。その他の設定も実によく出てきており、唸らさせられました。非常に面白かった。続刊が楽しみ!

与太話

竜と勇者と配達人で考える環境問題

銃・鉄・病原菌に曰く、古来栄えた文明は気候がいい感じで植生や動物が人間に利用しやすいという資源に恵まれた環境にあった、つまり地形ガチャで当たりを引いた所が栄えた、とまぁそんな感じの事が言われています。そして、滅び去った文明は資源を食いつぶしそこから離れざるをえなかった、とも。

さて、竜と勇者と配達人の世界観ですが、コラムで"技術の不足をファンタジーパワーで無理やり補ったらどうなるか"と説明されています。このファンタジーパワーというのは魔法による物が大きいですが、ファンタジー動植物の恩恵も大きくあるように見えます。さて、この世界は持続可能なのでしょうか?

途中、勇者様御一行が竜を狩る話が出てきます。まさに題字の通り竜と勇者。そこでは、まぁ色々とお話で、竜が凄まじく有益な資源であると示されています。この世界ではまだ竜は圧倒的強者で支配者でありますが、ここに火薬と銃が登場して竜を打ち倒すコストが圧倒的に下がるイノベーションが発生したらどうなるでしょうか? 竜の乱獲……絶滅……そういった事が発生しうる可能性を感じます。

また、魔法の設定ですが、どうもエーテル媒介らしいです。大気中の第五元素、神秘なるもの。竜と勇者と配達人の世界は、剣と魔法が支配していた神秘の世界が、徐々に文明の光で解き明かされ始めている世界です。このエーテルは、大気資源として今後も利用し続ける事ができるのでしょうか? 工業化による大気汚染といったものや、そもそもエーテル資源の枯渇など、魔法を元として構築された文明が魔法を失って維持できるのか。

良い話もあります。この世界では狩猟権により、動物の狩猟は厳しく管理されているのです。乱獲を防ぎ、自然を持続可能な状態にするという知恵は太古からあったと聞きます。ところが、この世界の狩猟権は半分は利権、袖の下で解決できるという内容も示唆されています。これでは、わるい企業がお金を積めば森林伐採など世界規模の環境破壊が許されてしまうのでは? 幸いすでに体制はあるわけですから、地域間での包括的な合意形成と実効性のある条約の提携ができるかという所が、今後のこの世界の分かれ道となるのではないでしょうか。

まもろうシーライフ!

竜と勇者と配達人で考える労働の変化

この漫画を読んでいてまず思ったのは「よし! 人材ネットワークのハブを作って一山当てたろ!」でしたが、すでに職人ギルドもあり十分組織化されていました。そんなギルドにこき使われ、疲弊する若者の話が……。

LIFE SHIFTで労働時間の話が出てきましたが、週40時間労働が決められ余暇の概念が生まれたのは産業革命以降、比較的最近の話だそうです。ファンタジー世界の彼らは、この科学万能の世界の我々より長時間労働をしていたと言えるでしょう。

また、この作品には多くの職業が登場します。これはつまり、高度な分業化が進んでいることに他なりません。主人公は結構、事務方やら手配師やら兼業してる気もしますがそれはそれ。これらの描写から作中の舞台では発展した大きな経済圏を持っている事が伺えます。本来であれば産業革命以降に発する流れですが、そこはファンタジーパワーにより埋められてプロセス化が進んでいるという事なのではないかと思います。

しかしながら、職種の多様性は技術の発展により淘汰されうるものであります。作中でも機械によって魔術師の仕事が置き換えられる例が出てきますが、他の職種も置き換えられたり統合されたりするかもしれない。また、それによって新しい仕事が出てくるかもしれない。

前述の通り、作中は剣と魔法が支配していた神秘の世界が、徐々に文明の光で解き明かされ始めている世界です。社会は変化し、人々もまた変化をしている途上、職能の変化や労働環境の変化に直面していく事になるのでしょう。それは現代につながっていくわだちのような物になるのではないかと思われます。

ひるがえって現代の我々も高度情報化社会のさなかにあり、竜と勇者と配達人の彼らと同じように労働の変化に直面しています。昭和の働き方がナンセンスと言われるように、振り返って平成の働き方はナンセンスと言われるような、そういう時代に突入しようとしているように思います。